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 夢見ていた事がある。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 やさしいおはなし 
 
 
 
 
 
 
 
 
 二人。
 布団の中で、子猫のように丸くなって。
 くすくす、くすくす。
 
 ――ねぇ、ビュウ?
 
 娘が、囁く。
 
 ――貴方の話を、聞かせて?
 
 青年が、答える。
 
 ――俺の話?
 ――そう、貴方の話。貴方の子供の頃の話。どんな子供だったとか、どんな夢を見ていたとか。
 ――……面白くないぞ。それに、血みどろだ。
 
 娘は、薄く微笑む。
 
 ――それでもいいの。貴方の話が聞きたいんだもの。
 ――物好きだな。
 ――お互い様。
 ――そうだな。
 
 そうして、二人笑い合い。
 
 ――……ガキの頃は、ずっと戦場暮らしでさ。
 ――うん。
 ――物心付いた時にはもうそれが当たり前で、だから、普通の子供じゃなかったよ。
 ――うん。
 ――俺の周りじゃ、よく人が死んで。
 ――うん。
 ――俺、それが嫌だった。俺の母さんも死んだらどうしよう、って。
 ――うん。
 ――だから、母さんが死なないように、母さんとか、親父とか、姉さんとか、俺の事構ってくれたオッサンたちが死なないように、ひたすら頭使って。
 ――うん。
 ――……誰かを、ちゃんと守れる人間になりたかった。
 ――…………。
 ――俺の母さんが、俺をずっと守ってくれたように。周りにいる誰かを、死なせずに済むように……。
 ――…………。
 ――……俺は。
 
 青年は、腕の中の娘を見やる。
 娘は、青年の肩に頬寄せたまま、彼の視線を受け止める。
 
 ――俺は、そんな人間になれたかな?
 
 僅かばかり、不安げに顔を曇らせる青年に。
 娘は、淡く微笑む。
 
 ――えぇ。
 
 頷く。
 
 ――貴方は、皆を、ちゃんと守れているわ。
 ――……そうか。
 
 青年の面に浮かぶ、微かな安堵。
 
 ――良かった。
 
 そうして二人は再びくすくす、くすくす。
 子猫のように丸まって。
 
 
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